昔々、あるところに・・・
アンリという、それはそれは美しくて可愛くて賢くて優しくておしとやかで気が利いて存在自体が人類を超越しているといってもいいパーフェクトなヤマトナデシの(以上、自己PR文より)お姫様がおりました。

長年子宝に恵まれなかったこの国で、王妃様の初産を今か今かと隣室で待ちわびていた王様が驚いて腰をしたたかに椅子に打ちつけ悶絶するほどに元気な産声を上げて生まれたアンリ姫は、少々影が薄くとも優しく温かい両親の元ですくすくと育ち、10歳になることには国一番の怪力王決定戦にて惜しくもメダルに一歩届かずな4位となるほどに逞しく、元気に育っておりました。

しかしそんな幸せな日々も長く続かず…。

アンリ姫が雪辱を晴らすべく再び怪力王決定戦に挑み、順位を3位まで繰り上げるようになったころ、
そんな娘の明らかに方向性の間違った情熱を懸命にも理解しようとしていた優しい王妃様が、影の薄さに添うように儚くも突然の病で病死してしまったのです。

悲しみにくれたアンリ姫は、来る日も来る日も、ひたすら母がお買い物に便利ねと褒めてくれた樽運びを延々と繰り返しては枕を濡らす日々を送っておりましたが、そんなアンリ姫の心と未だ目立たずとも確実に増量していっているであろう筋肉量を心配した王様は、姫には母親が必要なのだとか何とも見当外れも甚だしいことを理由に、なんと、新しい妃を娶ってしまったのです。
そんな王様の娘の思春期を全く理解していない行動に腹を立てたアンリ姫は机を投げて抗議しますが、机を投げれる程に元気が出たことに感動した王様は聞く耳を持ちません。


こうして、アンリ姫は17歳という複雑なお年頃の最中、
二人目の母親との生活が始まってしまいました。


しかしながら、継母と義理の娘がすぐに馴染むわけもありません。

新しい妃が男で娘である自分と同い年なのは、知られざる父親の守備範囲の広さに驚くも偏見はよくないと自分を納得させることで解決しましたが、問題は継母の性格の悪さにあったのです。

初対面では非常に礼儀正しく親切だった継母は、その地位を手にするや否や態度を一変させ、定番を貫くような娘いびりを始めたのです。
そのくせ王様の前での猫被りだけは天下一品ときており、そろそろ優しさだけが取り柄になってきた王様は全く気付くことありません。
初対面時の面の皮の厚さにうっかり騙されたアンリ姫は敗北感に打ちひしがれながらも、持ち前の屈強な反発精神から見る見る内に対抗スキルを上げていき、継母との壮絶な罵りあいの日々を送っておりました。


さて、そんなある日。

どうにか継母の弱点を見つけ出さんと忍び込んだ継母の部屋で、一歩進むごとに四方から降り注ぐナイフの罠を通信教育で習った空手で掻い潜ったアンリ姫は、部屋の隅でフレームがガッタガッタに切りつけられた鏡を発見します。
明らかに怨念の向けられたその形跡に、弱点見つけたり!と嬉々として近づいたアンリ姫ですが、突然、鏡がゆらゆらと揺れたかと思うと、なんか無駄にマントを重ねた男が無表情で鏡の中に立っていました。

「…え、合わせ鏡的な未来の旦那様?」
「来世でもお断りだ。」

真夜中の12時に合わせ鏡をすると未来の旦那さんが映るとか昔懐かしな都市伝説をとりあえず口にしてみたアンリ姫ですが、失礼すぎる即答に再び通信教育の成果を見せんとばかりに唸る拳を振り上げました。

しかし、そこは怪力王決定戦第3位の姫を瞬時にお断りする鏡です。
アンリ姫の、自分でも惚れ惚れするような角度で決まったはずのストレートパンチは、ガコン!と音を立てるもフレームの装飾を一つ落とすだけに留まり、狙ったはずの鏡にはヒビすら入っていません。
自慢のパンチが通じなかったことにおろおろしたアンリ姫は、ショックのあまりに思わず舌打ちを零します。

「無駄だ、この鏡は割れはしない。」
「鏡は割れるもんですよ。」
「そういう設定だ。」

『設定』という魔法の言葉でさらりと文句を流されたアンリ姫ですが、所詮鏡よと自身に言い聞かせつつ、改めて無表情長髪男に話しかけてみます。

「とりあえず、どなたですか」
「魔法の鏡だ。」
「…あー…そうですか、じゃあ…」
「待て」

会話を試みるも、良い年した大人から痛い発言が聞こえた時点で早々と考えを変え、アンリ姫は戦略的撤退を取ろうと背を向けますが、そうは問屋が、むしろ話の展開が許しません。とりあえず、鏡から一歩遠ざかるに留まり、改めて鏡に向き合います。

「えーっと…魔法の鏡さんは、何の御用で出てきたんですか」
「忠告しに来た。」
「忠告?」
「…王妃のことだ。」

アンリ姫は、ひたすらに無表情で会話を続ける『魔法の鏡(自称)』の表情筋の稼働率が気になりつつも、シリアスな単語に思わず背筋を伸ばし、堅い口調で聞き返しました。

一体なんだというのでしょうか。

継母のことは日々エスカレートしていく嫌がらせにアンリ姫のただでさえ短い導火線は爆発寸前で、いまやあの野郎コンチクショウといった仲です。
そんな継母に関しての忠告…意味不明な鏡の出現に忘れかけていた忍び込んだ目的を思い出し、アンリ姫は継母の弱点が聞けるのでは、と胸を躍らせます。

しかし、


「王妃が、日々のお前との罵りあいに終止符を打たんと、お前の殺害を企んでいる。」
「あ゛?」

予想外に告げられた言葉に驚き、アンリ姫は思わず姫にあるまじき声をあげてしまいました。

なんということでしょう!

日夜、どれほどの罵倒や仕込みあったトラップで満身創痍にはなりつつも、父である王への体面か、ギリギリのラインを保っていた継母が、ついに動いたのです!
やはり、一昨日こっそりと継母が愛飲していた紅茶を唐辛子入りとすり替えたのがバレたのが原因でしょうか。それとも、昨日、会話の語尾に常に死ねと付けていたことが癇に障ったのでしょうか。

どちらにしろ、そうと知れば、こんなところでぐずぐずしている余裕はありません。
すぐに戦闘準備をしなければ!と気合も新たに腕を高く振り上げたアンリ姫に、鏡の男は非常に冷めた目を向けておりましたが、きっと気のせいだとアンリ姫は確信し、お礼もそこそこ、部屋を飛び出して行きました。


こうして、ついに継母VSアンリ姫の生死をかけた戦いが始まったのです――。



***



「…いや…始まったのです、じゃないよ。なにそれ。」
「だから昨日の夢の話。」


「…ツッコミどころありすぎてどこからツッコめばいいのか分かんないんだけど。」
「夢なんてそんなもんだろ?」
「ってか、鏡の人ってあの偉そうな、隊長とか呼ばれてた人でしょ??
 一回しか会ったことない人にそのキャスティングはいいの??流石にヒドイよ。」
「夢なんだから仕方ねぇじゃん。
 ってかそりゃオレの台詞だぜ?起きた途端、腹がよじれて死ぬかと思った。笑い過ぎて」
「いや知らないよ!!ユィンくんが勝手に見たんじゃん!!」
「お前が昨日、ヴィタに白雪姫なんか読み聞かせるからだろー?」
「にしたって完全にミスキャストだし!!アタシはお姫様で大正解だけどさ!!」
「ふっ・・・バッカお前、オレの想像力なめんなよ??」
「はい??」



「聞いて驚け―――イーグのドレス姿だってバッチリ出てきた!!」

「・・・。」
「・・・しかも超フリッフリ。」



「・・・・・・・・・・・・・・ブッ・・・!!」

「あはははっははは!!!!やめっ・・・は、腹いた・・・っあははははは!!!」
「しかも意外と似合ってんだよなー人殺しそうな表情してたけど。」
「あはははっははは!!っ・・・ゲホッ・・・あははははははっ!!」

「咽んなよ。いくらなんでも笑いすぎだろ。」
「だって・・・だって・・・・ブハッ!!!イーグがドレス!!フリフリ!!・・・ブッ・・・あはははははは!!!!」
「あー・・・えーっと、アンリ。そろそろ落ちついた方がいいかもしんないぞ?」
「だって・・・ブフッ・・・!!ドレス!!よりによってドレス!!気持ち悪い!!キモイってか気持ち悪い!!
 ショッキングピンクに真っ白なレースとフリルてんこ盛りで真っ赤なリボン!!」
「いや、そこまで細かく言ってねぇし。あのな、言いそびれてたんだけど――」
「ちょ、どうしよう自分の想像力が怖い!!気持ち悪いよー!!」

「さっきから…」




「…………………人で、何想像してくれてんだ?この脳味噌すっからかんアホ女」
「!!!!?」


「イーグが後ろで睨んでるぞぉー…って、言おうと思ったんだけど。」
「・・・・。」


「ど、どこから聞いてた??」
「テメェの大爆笑辺りから。」

「ちょ・・イ、イーグさん??なんか目が笑ってないよ?ほら、素敵なご尊顔にお似合いの笑顔が台無し!!」
「そんなことないぜ?それよりアンリ、ちょっと付き合えよ――裏路地まで。」
「あ、はは・・・ごっめーん、アタシそういえばアリエルに依頼書整理やれって言われてんだった☆
 じゃあ、そういうことで――」

「まぁそう言うなよ…なぁにすぐ終わるぜ?………テメェの人生ごと。」

「・・・。」
「・・・。」

「っいーやー!!!」
「テメッ!!待ちやがれ!!」
「追ってくんな女装癖!!」
「生まれてから一度もしたことねぇよ!!妄想女!!」
「誰が妄想女よ!!そもそもユィンくんが――ってあっ、居ない!!逃げやがった!!」
「あ゛ぁ??ユィンが何だよ??」
「だーかーらー!元はと言えばユィン君が・・・」


この日、休む間なく続いた罵りあいからの掴み合いは、夜まで続いたそうな。
ちゃんちゃん♪




贈りあいましょ入り林檎



2011.07.05 ... 花酉