「そーいやイーグって、人並みに泣いたりすんのかねぇ」

始まりは、目ぼしい依頼にもありつけず、だらだらーっと過ごしてた平和な午後。ユィンのそんな一言だった。

「えー……あの冷血人でなし大魔王がぁー? 何それキモーイ」
「フルボッコだな、アンリ」
「いやだってさ、想像できないもん。 ユィンくん想像できる?」
「かろうじて、人の不幸で笑い泣きしてるとこなら」
「……いらないよ、そんな変化球すぎるの」
「ははは、デスヨネ」

「とはいえ、アイツだって一応は人間なわけだし?
 まー今はともかく、今まで一度も泣いたことないってことはないでしょ」
「えー……生まれた時とか?」
「そりゃ泣いてなきゃお医者さん心配しちゃうだろーな……ってそうじゃなくて」
「冗談、冗談。 うーん、とりあえずアタシは見たことないしー
 そーなると……」
「アンリより付き合いが長いヤツってことでー」

「「アーリエルくんっ♪」」


(こっち来たー!!!!)

あからさまなほどの嫌そうな顔も、わかっててスルーする2人に通じるわけもなく。
パーティの会計係、今日も不幸に会話に強制参加である。

「……俺は今月の残金と来月分の収入計算で忙しい。
 暇つぶしなら他所で……」
「アリエルって、いつイーグに遭遇もといで出会っちゃったんだっけ?」
「結構付き合い長いんだろ?」
「人の話聞いてくれ。 というか俺を巻き込むな」
「いーから、いーから。
 どーせ仕事も入ってないんだし、焦ってやることでもないでしょ?」
「あのな……こーいうのは溜め込んでやるもんじゃないし、
 そもそも、全員の金遣いが荒いのが原因――」
「まーまー、あとで手伝ってやっから。 ロウが」
「そうそう、ロウくんが」
「……2人が手伝う気ゼロなのはよくわかった」

「で? いったい何でそんな話になったんだ」
「いやーそれがさ、昨日ロウくんと買い出し行ったじゃん?
 その帰りに、泣いてる子供がいてさー」
「……アンリ、もうすぐ成人だっていうのに子供を泣かすのはよくないぞ」
「ちがうっつーの!! 誰がアタシが泣かしたっつってんのよ!!!
 やるか、そんなこと!!」
「ハハハ、まぁやりかねないから仕方ねーよな」
「ユィンくん、超シャラップ。」

「とにかく、泣いてる子がいて、話聞いてみれば迷子だっていうからロウ君が送っていったんだけど……」
「その話を俺が聞いて、子供ってよく泣くよなーってなって、最後に泣いたのいつ?ってなって、
 あーだこーだでそーいう話に」
「まったく意味不明だな。 ……まぁ、いいけど。
 どうせ期待に添えるようなことは何ひとつ覚えがないぞ」
「あ、やっぱり?」
「あぁ、そもそも会ったのはイーグが4年前だが、
 1ヶ月くらいで行方くらましてからは1,2回会っただけだし、そもそも性格はずっとアレだ」
「可愛げねーお子ちゃまだな、そりゃ……」
「本当にな……おかげでイーグの泣いてるとこどころか、俺が何度も泣かされた。
 主にアイツから被る迷惑で」
「やめて遠い目しないで、悲しくなる」
「そう思うならイーグとの喧嘩でもの壊すのやめてくれ、アンリ。
 おかげで今月も修理代でカツカツだ」
「努力致す」
(絶対ウソだ……!!)

最近、一生経験することのないと思われていた明日の食糧の心配をする貴族の三男坊――
もといアリエルが大きく肩を落としたのをスルーした2人はまだ続ける。

「しっかし、やっぱりイーグの泣いてるとこは誰も見たことないかー」
「まぁ、実際に泣かれたら正直怖いだろ……」
「いやいや、慰めてあげますよ? 俺の豊かな胸で存分にお泣きっ!!てね」
「……男の厚い胸筋に包まれればそりゃ泣けるだろうな……」

「…………。」

「???」
「どーした、アンリ?
 さっきっから黙りこくって……」
「いや、実はさーアタシの故郷に鳴かない鳥をどうするかーみたいな例えがありまして。
 それを今の状況に当てはめるとー」

くっだらないイタズラを思いついた、キラキラした瞳のアンリに、
出たのは溜息と面白げな口笛一つ。


「泣かぬなら 泣かせてみせよう 馬鹿イーグ」


2013.04.25 ... 花酉